「ああ、疲れた」
夜の帳の中呟いて、ベンチに腰を下ろす。
ワールドアクシズパークで祭りが開かれていると聞いてやってきてはみたものの、人ごみがどうにも面倒で、結局すぐに逃げて来てしまった。
祭りの会場から遠いここに人気はない。
息を吸う。人口密度が違うだけで、空気がやけに美味い。
「あ、ますたぁ?」
ぐったりと深くベンチに腰掛けて一息吐けば、背後から声を掛けられた。
馴染みのある、しかし違和感を感じる声。
間延びした印象のそれに、ある予感を覚えつつも振り返る。
―――そこには、案の定、予想した通りの様子の少女が立っていた。
赤く色づいた顔。
ほのかに潤んだ瞳。
そして、童女のような満面の笑みを浮かべて寄ってくるその姿はどう見ても―――
「ユノちゃん…酔ってるな」
「えぇ?酔ってないよー…」
「酔っぱらいはそう言うんだ」
不満げに反論をしてくるものの、頬を染めてケラケラと常にない明るさで笑う姿は、どう見ても素面のそれではない。
その手に握られた紙コップに入っているのは恐らく酒なのだろう。例のイベント会場の近辺で売られていたのだろうか。
大方、ジュースと間違えたか誰かに騙されたかしたんだろうが、なるほど。酒を飲むと明るくなる気性のようだ。
―――だが、こんな人気のない場所に若い娘が一人で来るのは感心しない。
「危ないぞ、一人で出歩くと」
「大丈夫、だよー…」
男は狼なんだぞ、と諭しても、隣に腰を下ろしゆるんだ笑みを見せてくる。その様子に警戒心は欠片もない。
「あのねー…マスター…だいすきー…」
囁くように言った上、近付いてきて上目遣いで見詰めてくる。
見る奴が見れば理性が千切れそうなユノの様子は、幾ら歳が離れているといっても目に毒だ。
―――だから男は狼なんだと言っているだろうに。
全く理解しようとしない目の前の少女がどうやったら分かるのか。頭を抱えたくなる。
けれど虚空を見詰めて本格的に思案し始めた瞬間、重みを脇腹の辺りに感じた。
ずる、と膝の上に倒れこんできた身体から、静かな寝息が聞こえてくる。
盛大な溜息が、思わず口から吐き出された。
―――全く、この娘は年齢にそぐわない落ち着きを見せる反面、危なっかしい処も多分にあるから始末が悪い。
もう一つ溜息を吐いて、起こさないよう、静かに上着を脱ぐ。
まだ体温の残るそれを掛けてやれば、ユノの顔に子供のような、幸せそうな笑みが浮かんだ。
無防備な様に、さらにひとつ溜息が零れる。
「俺だって、まだまだ捨てたもんじゃないと思ってるんだがなぁ」
ただ穏やかな寝息だけが聞こえる空間の中、一人ごちる。
膝の上、まだ自分の半分ほどしか生きていない少女が起きる気配はない。
信頼されている。それは不幸なのか幸いなのか。
起こさぬよう、そっと頭を撫でる。
こうなったらウィルかルートに連絡して、迎えに来てもらわなければならない。自然、頬に苦笑が浮かぶ。
「…ホンットに、手の掛かる孫弟子だ」
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深夜のテンションで失礼します…!
このマスターは変態一歩手前ですね!分かります!
本当はこんな変態なマスターじゃなく、おおらかにユノたんを可愛がってくれるおじいちゃんを愛してます!
でも…書けなかった…
どうやら志城はムッツリしか書けないみたいです。どうしようもない!