ユノがジュピターの起動を止めてからそろそろ一月が経とうとしている。
だがユノは眠りについたままで、未だに目を覚まさない。
告白したまま返事を貰えていない宙ぶらりんな状態のレインは、自室で溜め息をついた。
あの事件以来軍部は慌ただしい。
先技研での軍隊出動やらハスラー派制圧やら何やらとあったせいで、後処理に追われているのだ。
事件に関わったレインにも何かと仕事を回されている。
その合間をぬってユノに会いに行くのだが、ユノの状態は変わらない。
寝顔よりも、あの大きな真っ直ぐした目が見たいのに。
願えど届かず、日々は過ぎ。
二度目の溜め息を吐いた時、機械音が部屋に鳴り響いた。
メールだ。
ゴーグルを取り出し確認してみると、ミシェルからであった。
メールには、一週間後にネオポリスに戻ることが書いてあった。
ミシェルは約一月前から、アオ・テ・アロアでバカンス中だ。
あの事件が終わってすぐ旅立ってしまったので、レインは未だに婚約解消のことをミシェルに話せないでいた。
「やっぱりこういうのは直接言わなきゃ駄目だよな」
それがせめてもの礼儀だろうと、この一月まんじりとミシェルの帰りを待っていた。
大事な話があるとは伝えてあるから、ミシェルもすぐ時間を取ってくれるだろう。
「はあ…早くユノに会いたいな」
ベッドに寝転がり、レインは目を閉じた。
二日後、ユノが目を覚ました。
驚いたし何より嬉しいし安堵した。
このまま目覚めないのではないかと、嫌な想像が脳裏を掠めたこともあるだけに、本当にホッとした。
ユノは検査に時間を取られ、なかなか落ち着いて話せなかったが、合間を縫って些細な話をした。
話を出来ることがこんなに幸せだと感じたことは今までないだろう。
そうして、数日が過ぎ。
ユノは家へと帰ることになった。
ユノを迎えに車を走らせる。
場所はトッカル官邸。
行きがけに花屋で小さなブーケを買う。復帰祝いだ。
官邸横に車を止め、軽い足取りでユノのいる部屋へと向かった。
コンコン、とノックして中からの返事を待つ。
しかし、中からの返事はない。
再度ノックをしても結果は同じ。
「ユノ、入るぞ」
声をかけ扉を開けば、そこにはキレイに整えられたベッド。
ユノの姿は見えない。
「迎えに行くことは伝えたよなあ…」
昨日、本人に伝えたのだから、先に帰った訳ではないと思うが…。
どうしたものかと首をひねった時、背後から声をかけられた。
「あれ、レイン。何してんだ?」
後ろを振り向けば、鮮やかな赤い髪。
「ルート」
よお、と手を挙げるルートにレインも挨拶を返す。
「で、何でいるんだ?お前」
「何でって…昨日迎えに行くって言っただろ?…ユノはどうしたんだ?」
苦笑しながら聞くと、ルートは怪訝そうな顔をした。
「お前…聞いてないのか?」
予想外の言葉に眉を顰める。
昨日、迎えに行くことをユノに伝えた時ユノは頷いてたし、それ以後連絡はない。
思い当たる事柄も無く、レインは首を横に振った。
するとルートは溜め息を吐き、とんでもない発言をした。
「お前の兄貴が連れてったよ。多分、今頃お前ん家着いたんじゃないか?」
兄貴。
俺の。
「はあ?っつか、兄貴ってフレディだよな?」
「そうそう。ユノがそー呼んでた」
「なんでフレディが?」
レインの当然の疑問に、ルートは何故か神妙な顔をした。
「…それは俺から言うことじゃない。直接、本人の口から聞けよ」
訳がわからないまま部屋を追い出され、レインは愛車で家への道を急いだ。
「フレディ!」
家へと帰り着き、兄を呼ぶ。
「まあ、坊ちゃま。おかえりなさいませ」
「ああ、リンカ。フレディは?」
挨拶もそこそこにフレディの居場所を尋ねる。
しかしリンカが口を開くより先に、陽気な声が耳に飛び込んできた。
「よお。帰ったか、レイン」
声の方に顔を向けると、そこにはフレディとユノが立っていた。
「フレディ!お前どういうつもりだよ!」
「どういうって…何がだ?」
「とぼけんなよ!ユノ連れ出して何を…」
問いただそうとした言葉は最後まで続かなかった。
横から、割り込んできた声によって。
「レインー!!」
声と同時に衝撃。
軽いデジャブ。
ああ、前にもこんなことがあった。
「ミシェル…」
タックルするように抱きついてきたのは、ミシェルだった。
「ごきげんよう、レイン。お久しぶりですわね」
「お前、いつネオポリスに戻ってきたんだよ」
「昨日ですわ。予定より二日も早く着いたので、驚かそうと思って」
ニコニコと笑うミシェルの横で、フレディがぽんっと手を打った。
「そうだ。ミシェルにも伝えておかなきゃな」
フレディの言葉にミシェルは首を傾げる。
同時にレインも眉を顰めた。
(ミシェル『にも』?)
なんだか嫌な予感がし、口を挟もうとしたが先にミシェルが口を開いた。
「なんですの?フレディお兄様」
フレディはニコリと笑い、ユノの肩を抱きながら告げた。
「ユノと婚約することにしたから、よろしくな」
To Be Continued
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お前どんだけ兄貴が好きなんだよ!って感じですね。大好きなんです。
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