「出掛けよう!」
そういって、彼女を攫うようにして連れてきた。
勿論、邪魔が入らないよう一人の時を見計らって、だ。
困惑気味の彼女を説き伏せてやって来たのは―――ネオポリスに最近出来たばかりのアミューズメントプール。
それは、ある計画を実行に移すために。
「―――あの・・・」
先に着替えてプールサイドで待っていると、後ろから遠慮がちな声が掛けられた。
その声に、期待を込めて振り向く。
視線の先には、水色のスカートタイプのビキニを着たユノちゃんの姿。
自分で見立てたとはいえ、その水着は彼女に良く似合っていた。
着慣れない水着に恥らう姿と相まって、思わず見とれてしまう。
「…ノディさん?」
「あ、ああ」
控えめに掛けられた声に、現実に引き戻される。
目の前には、怪訝そうな少女の姿。
「参ったなあ。君があんまり愛らしいから、言葉を無くしてしまったよ」
「あ・・・ありがとうございます」
努めて軽く聞こえるように言うと、ユノちゃんはただでさえ紅く染まっていた頬を、更に色付かせた。
その可愛らしさに、もうやられてしまいそうだ。
(本当に、可愛い)
一回りも歳が違う相手にこんなことを本気で考えるなんてどうかしている。
理性はそう訴えかけているのに、気分が昂揚するのを止められなかった。
「さあ。それじゃ、今日は目一杯遊ぼうか」
戸惑いの抜けない彼女の手を握って、プールへと歩き出す。
―――今日はきっと、楽しい一日になる。
準備運動を終えて、プールの縁に立つ。
足の方から、徐々に水温に身体を馴染ませていく。
まどろっこしい事は嫌いだが、大事な少女に何かあっては大変だ。
身体を解している間に、彼女の水に対する意識は聞いていた。
どうやら、足が着けば平気らしい。
―――彼女は口に出さなかったが、全てを水に持っていかれるのは、きっと恐ろしいのだろう。
梯子からプールに降りて、後から来た彼女の様子を伺う。
どうやら、いつも通りの様子で、少し安心した。
「少し、泳ごうか。私が手を引いていてあげるから」
「え・・・悪いですよ」
「良いんだよ。私がしたいんだから」
提案に、ユノちゃんは乗ろうとしない。
そんな性格は美徳と感じるが、それよりも損だと思う。
「手を離したりしないよ。…それとも、信用できない?」
「それじゃあ・・・お願いします」
その言葉に、彼女はようやく頷く。
実のところ、そう言えば彼女が折れることは予想出来ていた。
自由遊泳のエリアを、彼女の手を引いて後ろ向きにゆっくりと歩く。
ユノちゃんの表情は少々硬く、脚の動きもぎこちなかった。
「もし不安だったら、手といわず縋り付いてくれても構わないよ」
本気半分に言うと、上目遣いでこちらを見て、困った顔をする。
「い、いえ。大丈夫です」
予想していたとはいえ、その言葉に少々落胆させられた。
(解ってはいるのだけどね)
この大人しい少女は、他人に頼ることを好まない。
―――極僅かな例外を除いて。
『例外』になれていないことは、自分自身良く分かっている。
その事実に、苛立だしさを感じていることも。
この手を放す素振りをすれば縋ってくれるかと、ふと思う。
けれど、固く握られた両手が、彼女の心の傷を表しているようで―――やはり手放せそうにない。
結局、悲しませるよりも甘やかしたいのだ。
どうしようもなく甘やかして、私なしではいられなくしてしまいたい。
(…どうやら、相当重症だ)
そこまで考えて、随分とのめり込んでいるのだと思い知る。
それが不愉快ではないことが、全てを物語っている気がした。
(―――腹を決めなくてはなるまい)
元々そのつもりで今日は来た。
けれど、予想以上に自分の中で彼女の比重が大きくなっていることに、正直驚いた。
(これはもう、負けられないね)
勝てない勝負に臨むつもりは更々ない。
勿論、受身になる気も。
ライバルは数多い。
―――その全てを蹴落として、絶対にこの子の隣を手に入れる。
(―――さあ、始めよう)
目の前で懸命に足を動かす少女を見遣る。
これから否が応でも巻き込まれていく彼女に、悪いと思う気持ちは勿論ある。
(でも、覚悟してしまったから)
ごめんね、と心の中で呟いて、目の前の少女の手を引き、抱き寄せた。
「ノ、ノディさん!!?」
慌てる彼女を離さぬように力を込めて、耳元で囁く。
(これは宣戦布告だよ)
腕の中の少女と、その周りの男共への。
「覚悟しておきなさい、ユノちゃん。どうやら私は、自分で思っていたよりもずっと欲深なようだから」
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王子が好きです。
何か予想以上にメロメロな人になったけどコレはコレでいいと思った!
次回作では攻略できるかなあ…できるといいなあ。