--年--月--日
脈拍、呼吸ともに正常。
状態に変化なし。
--年--月--日
脈拍、呼吸ともに正常。
状態に変化なし。
--年--月--日
脈拍、呼吸ともに正常。
状態に変化なし。
--年--月--日 ―――
来る日も来る日も同じ文章が書き綴られている『日誌』を閉じる。
(変化なし、か)
彼女の近くにいた存在であり、軍の関係者であるからこそ見ることが出来るそれを、丁寧に元の場所へ戻す。
小さく息を吐いて、落としていた視線を上げると、ガラス張りの部屋が視界の隅に入り込んできた。
ガラスの向こうのベッドの上には、人工呼吸器を取り付けられた少女が横たわっている。
「ユノ」
名前を呼ぶ。
返事は、無い。
勿論、こんな小さな声が届くわけはない。
でも、それだけじゃなく―――届かない理由は、明確な形を持って存在していた。
『メルクリウスの青い砂』事件。
あの運命の日、俺には何も出来なかった。
ただ、ユノが還ると信じて願い、待つことしか。
けれど―――願いは、届かなかった。
世界の在り様は一変し、そして彼女―――ユノの心は、遠く手の届かない処に行ってしまった。
以来、意識を取り戻さないユノの身体は、こうしてこの場所―――先技研第2分室―――で眠り続けることになった。
何も出来ず、後悔から得た決意さえ役に立たず、そうして掌から零れ落ちていった大切な存在。
何度悔やんだか知れない。己を呪ったことさえ数え切れない。
(―――それでも)
自分自身に失望し、伝えられない想いに絶望し、捨て切れない希望に縋りたくなる自分を恨んでも。
ユノを想う気持ちを、捨てられなかった。
心の中に、何年経っても、色褪せない想いがある。
歳の割にしっかりしすぎている処も。
偶に見せる照れたような顔も。
泣き顔でさえ、誰に見せず独占したいほど好きだった。
いや―――今でも。
(忘れることなんて、きっと一生出来ない)
―――だから俺は、一生ユノに恋をする。
いつか、目覚めればいいと、そう思う。
あの日の答えを聞かせてくれたらと願っている。
でも―――そう考える度に、心を刺してくる何かがある。
願うのと同じだけ、心を占める昏いもの。
それは、きっと恐れだ。
(俺は、怖いんだ)
ユノの返事を聞くのが怖い。
(だってもう―――答えは出ている)
ガラス越しの、穏やかに、ただ静かに凪いだ横顔。
その姿が、全てを指し示している。
俺に、事実を突きつけている。
政策判断コンピュータ『JUPITER』―――肉体を持たないが故に最善を識るもの。
俺から彼女を奪ったものの名前。全能の存在の名を冠するもの。
(分かっているんだ、本当は)
俺は、神様に負けたのだと。
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文章に迷いが丸見えです。
というわけで、レイン編ジュピターED後のレイン×ユノ…というかレイン→ユノでした。
大分レインが歪んでしまった(…)
想いの深さゆえに忘れられない。
でも、その想いがユノを引き止めることはなかったと思い知っている。
目覚めないからこそ想いを大事に抱え続けていられる。
そんな感じで。
いやうん、好きですよレイン。メインキャラで一番ですよ?
でも、こう…彼は何気に恋愛方面では重い男のようなので、一生ユノのことを好きなんではと思うわけです。
関係が決着する事が無いから尚更。
M/Fの時もさりげなくムッツリぶりを発揮してたしなー…