「うわぁ…広いホスト…」
アルファフィールドに降りてすぐ、ユノは驚きの声を上げた。
今アクセスしているホストの名はジョーカー。
最近になって、いつの間にか入れるようになったホストだ。
『おい、ユノ。大丈夫か?やたら広いぞ、このホスト…』
ルートからの通信だ。
ユノは辺りを見回しながら、溜め息を一つ吐いた。
「確かに、とんでもなく広いわね」
プリンセスタイプよりよほど広い。
それに、黒を基調とした造りのせいか、どこか不気味だ。
『やばそうなら一旦引き返して…』
「大丈夫よ」
不気味だが、危険だとは思わない。
ちょっと広いだけだと思えばいい。
「行ってみるね、ルート」
『…了解。やばそうだったらすぐに強制終了するからな』
「わかった」
通信を切って、ユノは目の前にあるドアから最初のフロアへとアクセスした。
「…ふう。随分変なホストね、ここ…」
一度踏んだフロアマインが消滅しなかったり、レーダーに何の情報も表示されていないのにいきなり別のフロアに飛ばされたり。
トラップに至っては今までアクセスしてきたホストすべてのトラップが出てきているんじゃないかという豊富さだ。
「このホストを立てた人は何考えてるのかしらね」
はあ、ともう一つ溜め息。
さすがに疲れたが、このホストの構造自体は複雑じゃない。
下へ下へと潜っていけばいい。
もう少し頑張ってみようと思い、フロアを移動したところでメッセージストーンを見つけた。
「今度はどんな内容かしら」
苦笑しながらメッセージストーンに近付く。
このホストにあるメッセージストーンは、まさに阿鼻叫喚というに相応しい内容ばかりだった。
そのメッセージストーンを開いたところで、ユノは固まった。
「え…これ…willって…」
思い浮かぶのは緑髪の微笑。
ユノに1-bit divingを教えた師匠であり、居候だった男。
ユノを弾丸から庇って、一人爆発する建物に残った。
…その先の足取りは知れない。
帰ってこなかった。
それが示す一つの現実を、ユノは、最近漸う認め始めていたところだ。
「ウィル…なんだよね…」
恐る恐るそのメッセージに目を通す。
【後からくる人にアドバイス】
そのタイトルで始まるメッセージは、何年も前のだというのに、ユノの知っているウィルそのままだ。
「ウィル…」
ウィルとの日々が脳裏を駆け巡り、ユノはたまらずメッセージストーンを抱き締めた。
「ウィル、私…ここまで潜れるようになったよ」
いつもなら上達すると褒めてくれる優しい声は、もはや永久に、ユノの耳に入ることはない。
それが悲しくて。
悔しくて。
寂しくて。
「ウィル」
応える者のない名は、ユノの口から発せられた瞬間、Ωの海に溶けて。
『ユノちゃん』
ただ、静寂だけが包む。
『…ユノ?どうした?何かあったか?』
静寂を破ったのはルートからの通信だった。
このフロアから動かないユノを不審に思ったのだろうか。
「ううん。何でもないよ」
心配をかけないように努めて明るい声を出す。
『そ…か。なら良いけどさ。…大丈夫か?』
「大丈夫。…行こうか」
メッセージストーンを強く抱き締めたあと、ユノは手を離した。
いつまでもここにいる訳にはいかない。
『無理すんなよ?』
「大丈夫だってば」
ウィルが通った道だ。
ここで諦める訳にはいかない。
それに、きっと大丈夫だ。
師が、ついている。
「行こう、ルート」
(行こう、ウィル)
(あなたが教えてくれた、1-bitの世界へ)
END
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ユノ→ウィル(故)でした。
水無がジョーカーにいったときはウィルをサポートにつけてました。
師弟であの人相手したかと思うとちょっと感慨深いものがあったりなかったり。
ところでウィル死亡バージョンでジョーカー行ったことないのですが、基本変わらないですよね…?
違ってたらこっそりご指摘下さると嬉しいです。
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