ふわりと、風が起こった気がした。
それは気のせいで、触れたと思った箇所にも何も触れた感覚はない。
視覚が起こした勘違い。
だけど彼女にとって、見えたものこそ真実。
「プラエ?」
瞬きをして、目の前で微笑む少年を呼ぶ。
「何かな、ユノ」
わかっていて聞いているのだろうか。
驚くほど人間に近いスムーズな会話をするのに、このAIは、彼女が当たり前だと思う事柄に疑問を示す。
だから判断がつかない。
彼女の問いたいことをわかっていて聞き返してるのか。それともわかっていないのか。
「何って、そ、その……今の」
曖昧な言葉になってしまったのは、ここが外であるから。
例え人通りが少ないといっても、今の行為を口にするのは彼女には躊躇われた。
「何も、してないよ」
「でも…」
「僕には生身の人間に触れることは出来ない」
一つ、溜め息。聞き方が悪かったようだ。
「…じゃあ、どうしてそんなことしようと思ったの?」
触れることは出来ないとわかっていても。
「…君たち人間にとって、特別な相手にする行為なんでしょう?キスは」
彼女が濁した言葉を躊躇いなく口にする。
ほんのりと、彼女の頬が色づいた。
「大抵は生殖行為の一環として。親愛の証として。挨拶として。慈悲の現れで」
淡々と述べながら彼女の周りをふわりと回る。
少年の言わんとすることがわからず、ただ黙って耳を傾ける。
彼女のそんな様子を知ってか知らずか、少年は言葉を紡ぐ。
「相手と場合によって意味は異なる。ただ、共通するのはそれが特別な相手にするということかな。違う?」
「…合ってると、思うよ」
少なくとも、誰彼かまわずする行為ではない。
「そう。良かった」
少年はにこりと微笑んだ。
「ユノ」
触れられぬ手で彼女の頬に触れ、額を合わせ。
「僕にとって、君は、特別だから」
先程と同じように、触れられないキスを。
まるで『誓いの口付け』のようだと、彼女は思った。
何に対する誓いかまでは、彼女は思い付かなかったが。
「プラエ…」
「…迷惑だったかな」
少し困ったように微笑む少年に、彼女は首を横に振った。
『特別』
それは前にも聞いた言葉だけれど、あの時よりも、彼女の胸に暖かく響く。
触れていない筈の頬や、額や、唇が、暖かく感じるのは何故だろうか。
「ううん。そんなこと無い。私も、プラエが好きよ」
彼女は笑って、宙に浮く少年の頬に口付けた。
END
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プラエの『僕の言葉が君には空虚に~(うろ覚え)』あたりから妄想。
しかし文書くの久しぶりすぎてぐだぐだに…orz
↓おまけ(レインユノ?)
レイン大好きですよ?ええ、大好きです(二度言う)