「寒っ…!」
外に出た途端吹いた風に、ユノはぶるりと身を震わせた。
12月も半ばを過ぎると、外でお昼を食べるものは少ない。
いつもはベンチの競争率が高い裏庭も、まばらにしか人の姿は見えない。
ユノもこの時期は教室か学食で食べるのだが、今年は違った。
その理由は…。
「ユノ」
「あ。ディアス」
9月の観測会から仲良くなったディアス・アルバン。
あの観測会以降、何となく彼とお昼を共にしている。
「…今日は空いてるな」
背の高い彼の目線の先を見ると、裏庭の中でも日当たりの良いベンチ。
こう寒いと、日当たりが良いか悪いかで昼休みを無事に過ごせるかが変わってくるのだ。
「良かったぁ」
ほっとして軽い足取りでそのベンチへと向かった。
ベンチに腰を下ろすと、すぐ後を追ってきたディアスも隣に腰を下ろした。
「寒いねえ」
お弁当を膝の上において手を擦り合わせる。
さすが12月、と変な感心をしてしまう。
「ん」
「え?」
「…やる」
そう言ってディアスが差し出したのは、温かいココア。
ディアスの横には、もう一つお茶の缶。
このココアは、ユノのために買ってきたのだろう。
「…ありがとう」
それがわかったから、ユノは素直に受け取った。
ここに来る前に、ユノのために(自分の分を買うついでではあろうが)、温かい飲み物を買ってきてくれた。
ディアスのその心遣いが嬉しい。
頬が緩むのを自覚し、誤魔化すために缶を頬に当てた。
その後二人で他愛ない話をしながらお弁当を食べる。
ディアスのお弁当は相変わらず大きくて、そのくせ食べるのは早くて、ユノはいつも待たせてしまう。
最初はそれに申し訳なさを感じていたが、今となるとそんな気持ちも無くなってしまった。
ただ一緒にいれる時間が嬉しい。
(ディアスはどう思ってるんだろう?)
この寒い時期もこうしてユノと一緒にお昼を食べてくれる。ディアスはそのことを特別に思ってくれているのだろうか。
ディアスの方をちらりと見ても、その横顔からは何も読み取れない。
「どうした?」
その視線に気づいたディアスがユノの方を向く。
「えっ!?…な、何でもない!」
焦って声が上擦ってしまい、更に焦りそうになるのを落ち着けるために残っていたココアを一気飲みする。
幸いなことにディアスは、それ以上突っ込んで聞いてこなかった。
そうして昼休みも残り時間が少なくなってきて、そろそろ教室に戻ろうかという頃。
「ユノ」
ディアスがユノの手に何かを置いた。
「…柚子?」
柑橘系の香りが漂うソレは、確かに柚子だ。
「今日は冬至だろう?」
「そうだけど…どうして?」
ディアスの言いたいことがわからず首を傾げる。
「…寒くなってきたからな」
ディアスは、ぽつりと、それだけ言った。
それは、つまり、寒くなった今でもこうして外でお昼を食べるユノを気遣っているのだろうか。
言葉少ないディアスの伝えたいことを感じとり、ユノはじわりと胸が熱くなるのを感じた。
「風邪など引くなよ」
「…うん!」
気遣いながらも、外で食べるのを止めようと言わないのは、ディアスもユノとお昼を食べることに何かしら意義を感じてくれているからだろうか。
(そうだといいけど)
予鈴が鳴ったために教室へと戻りながら、ユノは貰った柚子を見て微笑んだ。
「エイプリルさんに頼んで、今日のお風呂に入れようっ」
END
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『ナガツキ』呼びか『ユノ』呼びかで迷ったんですけど、観測会の夜に最後に ユノって呼んでたのでユノで。
しかしこのIFネタ、このまま行くとアンジェラと壮絶バトルになりそうです。それは怖い。
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