「もっうすっぐクリスマス~」
弾んだ声でそう言ったのはアルビエラ。
期末試験も終わり、冬休みまであと間近。
そうなると共に近づいてくるのがクリスマスだ。
「もう、エータったらはしゃいじゃって…冬休みはいっぱい宿題出されたんでしょう?」
「う…」
アンジェラの言葉にアルビエラの顔が歪む。
期末試験の結果がかなり危なかった彼女は、他の生徒より多くの宿題を出されていた。
「もうっアンジーったら嫌なこと思い出させないでよ!」
頭を押さえて苦虫を噛み潰したような顔をするアルビエラに、アンジェラとユノは顔を見合わせて笑った。
お昼休み。今日は学食で食べることにした三人は、学食に移動すべく階段をおりている最中だ。
クリスマスが近いということに弾んだ足取りとなっていたアルビエラを心配していたアンジェラだったが、宿題のことを思い出して重い足取りとなったことにホッとしているようだ。
…重すぎてフラフラしているアルビエラにまた心配しだすのも時間の問題だろうが。
「あれっ。ガーティア先生だ」
アルビエラが見知った保険医の名を呼ぶ。
ユノが階段下に目をやると、パリッとした白衣の背中が見えた。
(レリック先生とは大違いだなあ)
いつもしわくちゃの白衣を着た物理教師を思い浮かべ、ユノは少し笑う。
「ガーティアせんせー!」
勢いよく手を振り上げるアルビエラ。
その手が当たりそうになり、ユノは反射的に避けた。
避けて、アルビエラに危ないと注意する…はずだった。
(えっ…!?)
避けてバランスが崩れ、立て直そうと踏みしめた足がずるりと滑る。
(落ちる…!)
「ナガツキ!!」
自分を呼ぶガーティアの声を聞きながら、ユノは目をぎゅっと瞑った。
ドサッ
固い地面の感触を覚悟していたが、ユノの体を襲った衝撃は予想よりも柔らかかった。温かいし、凹凸もある。
(あ、あれ…地面って温かかったっけ?)
恐る恐る目を開けると、真っ白な白衣が目に飛び込んでくる。
「っ…ナガツキ、無事か?」
驚くほど近くで聞こえた声に顔を上げると、ガーティアの顔がすぐ近くにあった。
(え、ええ!?)
状況が掴めずパニックに陥りそうな頭に、友人の声が響いた。
「ユノ!大丈夫!?」
「ユノ~!」
後ろを振り返ると階段を駆け下りてくるアンジェラとアルビエラの姿。
自分が落ちたことに間違いはない。
目の前には白衣。
背中に回された大きな手。
「おい…大丈夫か?」
「!ご、ごめんなさい!!」
自分がガーティアの上に落ちたことを理解し、ユノは慌てて立ち上がった。
「怪我はないか?」
「だ、大丈夫です!」
ユノの返事にほっとしたように微笑みながら、ガーティアも立ち上がる。
「あ、先生は…」
「ユノごめんなさい~!」
『先生は大丈夫?』と聞こうとしたが、後ろから抱きついてきたアルビエラに遮られた。
「大丈夫!?ケガない!?」
「だ、大丈夫だよ、エータ」
「…無事で良かった、ユノ…」
震えた声が聞こえそちらの方を向くと、アンジェラが泣きそうな顔で立っていた。
「大丈夫だよ、アンジェラ。全然怪我ないし」
慌てて笑顔を作ってみせる。
実際、無事だ。ガーティアが庇ってくれたのだから。
「全く…階段では気をつけろ」
ガーティアが呆れたようにアルビエラを小突いた。
「はあい…」
しゅんとして素直に頷くアルビエラ。
さすがに反省しているようだ。
ガーティアはよし、と頷くと、ユノに向き直った。
「ほら」
そう言ってガーティアが右手をユノに突き出す。
その右手には、ユノのお弁当。
「あ…!」
先程落ちた時に投げ出してしまったようだ。
それの中身を想像し、ユノの顔が曇った。
「まあ、中身はぐちゃぐちゃだろうがな。弁当までは庇えん」
「あ、いえ…!すいません、ありがとうございます!」
「…ま、何か体に異常があったら保健室に来い。見てやるから」
ぽんぽんとユノの頭を軽く撫で、ガーティアは去っていった。
「……」
「ユノ?どうかした?顔赤いけど…」
「え!?う、ううん。なんでもない」
何でもなくはない。
落ちた時から心臓がうるさい。
ガーティアに撫でられた頭がじんわり熱を持っているように感じられる。
…不覚にも、間近で見たガーティアが格好良いと思ってしまった。
(これっていわゆる…)
「吊り橋効果?」
ユノの独り言に答えてくれるものはいなかった。
END
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クリスマスネタに見せかけて全くクリスマスネタじゃありません。
や、最初はクリスマスネタにする気だったんですがガーティア先生が去ってしまったのでフラグが立ちませんでした。落ちもないorz
これ書いてる途中で、サイラス×ユノよりサイラス+ユノの方が好きだと気づきました。
兄妹みたいな関係だとなお良い。ああでもCPでも好きだ…!(どっちだよ)
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